2024.05.20

落語を始めたことで、いろんな世界が広がった/ザトー

別府市を中心に活動する全盲のインディーズ落語家・ザトーさん。
大分市出身。幼いころから視力が弱く、緑内障が原因で23歳の時に失明した。
「実は失明した時はあまり実感がなくて、たまたま見えないだけ、明日には見えるようになるんじゃないか…と思っていたんです。その時は農業大学生で寮に入っていたので、孤立することはなく、周りもいい人たちばかりだったので、とても助けられました。いまだに人生の中で一番楽しかったのはあの一年ですね。卒業後は就職もできないから、実家にただただ引きこもる日々。その時のことはあまり思い出したくないし、外には出られなかったですね…」。

2月17日に『hitoyoshi~カフェとレストランのあいだ~』で開かれたPOARTのマッチングモデルイベントの様子

 

生活が変化したのは、音声で読み上げ機能のある携帯電話を入手して、Facebookをやり始めてから。たまたまFacebookで農業大学時代に知り合った人が、別府で障がい者自立支援の活動を行っていることを知り、その縁で2013年から別府で生活を始めたのだという。2014年、現代アートの発表の場となっていた『永久別府劇場』(現在は閉館)で、桂九雀(かつらくじゃく)の落語会が開かれた。中学の時にハマり、見よう見まねでやっていたという落語。しかも九雀は中学時代に大好きだった桂枝雀(しじゃく)の弟子だった。舞台を見に行き、すぐさま落語ブームが再熱。落語にまた触れて、やってみようと思い立ったのだという。

個性あふれる人が多く住み、アーティストも多い別府。「自分も何かできるんじゃないか?」と思った時に目の前にあったのが、「落語」。はじめて落語を披露したのが、2014年。それからいろんな人と出会い、企画をし、さまざまなイベントが生まれていった。
落語は、江戸と上方に大別されるが、ザトーさんの噺は大分弁で語られる。
さらに「地獄めぐり」など大分の地名やネタを巧妙に取り入れることにより、落語の中の世界が身近なものに置き換わっていくのが面白い。

現在は公民館やカフェ、旅館、カレー屋さんなど、様々な場所で落語を披露。別府や大分はもちろん、日本各地で活動を行っている。「落語をやり始めたことで活動も広がったし、知り合いがどんどん広がっていくのが楽しいですね」とザトーさん。
最近では、目の見える見えないに関わらず、様々な人とアートを楽しむワークショップなども行っている。
「アートをみている(観ている)人がどのようにみている(観ている)か、その話を聞くのがとても面白くて」。
実際に目が見えている人たちも、ほかの人の話を聞くことで、作品の新たな魅力に気づくこともあるという。それはまさに新しいアートの楽しみ方だ。
「今の僕があるのも別府の土壌があるおかげ。アーティストバンク「POART」も人をどんどんつなげ、そういうきっかけになる場になるといいなと期待しています」。

『hitoyoshi~カフェとレストランのあいだ~』のご夫婦と一緒に

 

<Profile>
ザトー (インディーズ落語家)
大分弁で落語する人。1987年大分市生まれ、別府在住。23歳だった2011年の冬、緑内障の治療を面倒くさがり失明。現在は全盲。
2015年、「ザトー」を名乗り、見ることをやめしゃべりはじめる。
古典落語の他、「日田の関さば(藤井青銅 作)」や「地獄めぐり(ザトー作)」などの県内各地を舞台にした新作落語、視覚障害者として様々な人と関わる中で生まれた漫談などで、県内外の落語会や地域のイベント、講演会、ライブハウスなどに出演。
その他、「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」のスタッフとして全国の美術館などでインクルーシブル鑑賞会のナビゲーターもつとめる。

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